幼い頃のしあわせな記憶を、宝箱に閉じ込めて 〜映画『たかが世界の終わり』〜

ザヴィエ・ドランという映画監督をご存知でしょうか。「美しき天才」「若きカリスマ」と評され、現在若干27歳ながら、カンヌ国際映画祭受賞の常連監督です。2016年の同映画祭でグランプリを受賞した、彼の最新作『たかが世界の終わり』が、2月11日から新宿武蔵野館他で公開中です。

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何を隠そう、わたしはこの監督の大ファン。2013年に日本で公開された『わたしはロランス』には「マイ・ベスト・ラブストーリー!」と号泣し、前作『Mommy/マミー』では、1児の母としての自我(著者にはティーンエイジャーの娘がいます)を痛いほど再認識させられるというとても幸福な体験をしました。「ストーリー的にツボ」「音楽が最高にクール」「撮影や編集の手法が天才的に美しい」「本人がとにかくイケメン(ゲイのようだけど)」……など、「この監督の作品のどこか好きか」という問いに対する答えは山ほどあります。わたしは諸手を挙げて、彼のセンス、彼が撮る映画が好きなのです。

そして、期待を込めて劇場へ足を運んだ『たかが世界の終わり』の封切り初日。前評判は上々で、客席は満席でした。そして、上映後。1時間39分の上映が終わったときのわたしの心の様子を擬音語で表現すると……それは、「ずどーん」。重い、とにかく重い。さらに、痛い。この作品は、ある家族の午後のひとときを描いています。一見、どこにでもいるフツーの家族です。フツーだけど、同じじゃない。そう、家族ってみんなそれぞれ異なる事情を抱えているんです。だからこそ愛おしい。不完全だから。その不完全で不器用な愛が全編に溢れています。

当たり前のような存在だからこそ、つい余計なことを言ってしまう。わざわざ感謝の想いを伝えたり、愛情を表現したりしない……。そんな家族への対応に、共感するひとは多いハズ。

▼多くを語らずともわかり合う、母と息子
© Shayne Laverdière, Sons of Manual/

物語はこうです。主人公は、自らの死を告げるため12ぶりに帰郷した34歳の作家ルイ。母のマルティーヌは息子の好きだった料理を用意し、幼い頃に別れた兄を覚えていない妹のシュザンヌはおしゃれをして待っていた。浮足立つふたりと違って、素っ気なく迎える兄のアントワーヌ、彼の妻のカトリーヌはルイとは初対面。ルイは、家族に真実を告げることはできるのか――――。

ぐっときたのは、往年のヒット曲とともに回想される、幼い頃の思い出のシーン。あの心が締め付けられるようなきゅんとする感じ、あれは、きっと、誰もが持っている心の中の宝箱に、大切にしまわれているものだと思う。

▼ヴァンサン・カッセルが主人公の兄を、マリオン・コティヤールがその妻を演じる
© Shayne Laverdière, Sons of Manual/

ちなみに、これまでのドランの作品とのわかりやすい違いがあるとすれば、それはキャスト。超豪華です。兄役に『美女と野獣』のヴァンサン・カッセル。妹役に『アデル、ブルーは熱い色』のレア・セドゥ(『美女と野獣』でヴァンサン・カッセルと美女と野獣を演じたのも興味深い)、そして兄の妻役に現在公開中の『マリアンヌ』に出演しているマリオン・コティヤール。個人的にはこの配役もツボでした。

主演は、『サンローラン』のギャスパー・ウリエル。欲を言えば、この主演を、グザヴィエ・ドラン本人で見たかった。年齢設定などを考えても現実的ではないのですが、演技をしている彼も本当に素敵。

▼家族揃ってテラスでの食事。これもわたしが大好きなシーン
© Shayne Laverdière, Sons of Manual

芸術家肌の主人公に、仕切りたがりで明るい母に気難しい兄、がんばりやさんだけどちょっと空回りしちゃう義姉、おしゃまで生意気な妹。自分の家族に当てはまるかも……!? 「そういえばここ何年か家族と会っていないな」。そんな方は、ちょっと立ち止まって幼い頃に記憶をはせ、家族に会いに行ってみてはいかがでしょうか。そしてこの作品に漂う空気感が好きな方、ぜひグザヴィエ・ドランの他の作品もチェックしてみてくださいね。

たかが世界の終わり
■監督:グザヴィエ・ドラン
■CAST:ギャスパー・ウリエル/ヴァンサン・カッセル/レア・セドゥ/マリオン・コティヤール
■上映時間:99分
■劇場公開情報:2017年2月11日(土)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA 他全国順次ロードショー

■公式サイト:http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/