[LIFE名鑑 #Books]絵画の天才を魅了した女性たち~19世紀末芸術への誘い~

19世紀末のヨーロッパは多くの芸術運動とスタイルが生まれた熱狂の時代でした。その中でも女性を好んで用いる作家や画家も多く、当時としては非常にセンセーショナルでした。単に官能的な魅力を超え普遍的価値を伝えるからこそ今も多くの人が愛好する世紀末芸術を解説した本を今回はご紹介。

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官能から人生のテーマへ


オーストリア・ウィーンで19世紀末の芸術シーンを率いたグスタフ・クリムト。黄金を画面いっぱいに用いた女性の肖像画などで知っているいる人も多いはず。とりわけ「接吻」は当時にしてセンセーショナルであり、現代の我々にとってもその官能的表現は驚きを与えてくれます。彼のウィーンでの活動を有名にした拠点のひとつが「分離派(ゼッセシオン)」。旧来的な絵画表現の大きな潮流に代わる可能性を明確に示すためのグループでした。彼の一見すると壮麗な絵画の多くにはこうした新たな可能性への野心がみられます。
私生活でも自由人であった彼にとって女性は、憧れであり、あらゆる理念を表現してくれる存在でありました。生や死といった究極的なテーマを表現するときにも女性が登場し、官能的であるばかりでなく哲学的本質を担うモチーフとして女性が描かれていました。

「よき時代」の光と影


19世紀末のフランスはベル・エポックと呼ばれ、比較的安定した時代でした。その最中に多くの芸術運動とジャンルが生まれ、抽象的な絵画運動へと向かう20世紀を準備する時代でもありました。象徴主義・印象主義・世紀末芸術などが入れ替わり時には並立し、セザンヌ・モネ・ルオー・ルドンが活躍した時代であることを考えると一概にこの時代のフランスの芸術をとらえることが難しいことが分かるでしょう。社会の多様化がそれだけ多くの表現をもたらすきっかけになったと言うことはできるのでないでしょうか。
今話題のアルフォンシュ・ミュシャもこの時代の人。彼の絵からもわかるように象徴的なモチーフとして女性が扱われていたことに、ウィーンの人たちとの共通点を見出すことができるはずです。

サロメの時代


この時代は、神話や伝承に登場する女性が好まれて描かれた時代。セイレーンやユーディトがその代表例といえるでしょう。その中でもこの時代を最も象徴するのは「サロメ」。世紀末芸術で最大の劇作家のひとりであるオスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』と、ピアズリーによって描かれた挿絵が、世紀末芸術におけるモードを決定的に表しています。
女性と絵画表現は19世紀末に向かって頂点へ。そこでは、時にはセンセーションを巻き起こしながら、絵画の表現そのものを変えながら開放的で自立的な女性像が登場していきます。

こうした多様な世紀末芸術と女性の関係を楽しめる本をご紹介。近代芸術の評論を多く執筆する海野弘氏は、まさに世紀末芸術を得意とする方です。今回は多くの女性モチーフを選びながら、画家と題材の両面から解説。目で見て、読んで、理解できる好著となっています。
日本でもファンの多い世紀末芸術。これを機に官能と美の世界に浸ってみては?

『ヨーロッパの幻想美術 世紀末デカダンスとファム・ファタール(宿命の女)たち』
■著者
海野弘
■価格
3,800円(税抜き)
■発売元
パイインターナショナル

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