[LIFE名鑑 #Books]女性ポップソングのルーツを探る。モータウンの色褪せない魅力

ミュージカル映画好きの中でもファンの多い「ドリームガールズ」。あるいは同名のブロードウェイを観劇したなんて方もいらっしゃるかもしれません。あの3人組のモデルをご存知でしょうか?彼女たちの名は「Spremes」。60年デトロイトで活躍した女性グループです。今回はこのグループが在籍し、多くの伝説的シンガーを輩出したレコード・レーベル「モータウン」の魅力をご紹介します。

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黒人シンガーのためのレーベル


モータウンは1959年、ベリー・ゴーディーJrによってデトロイトで設立されたレコードレーベル。ゴーディーJrは黒人中産階級の生まれで、若い頃はボクサーになろうとしていたこともありましたが、自身の音楽的興味と野心を徐々に実現させるために音楽業界に関わるようになりました。モータウンを設立する以前の彼はジャッキー・ウィルソン、スモーキー・ロビンソンといった伝説的黒人シンガーと製作を共にします。キャリアとしては順調なスタートでしたが、音楽業界の旧態依然としたシステムでは稼ぐことができないことに不満を感じ、多少の印税と友人からの借金を元手に自身のレーベルを立ち上げました。これがモータウンにつながります。

実は、このデトロイトという地はモータウンにとって非常に重要でした。当時の経済成長によって自動車産業が栄えたこの地には多くの黒人労働者が集まり、文化を形成したためです。ちなみに、「モータウン」の名は「モーター・タウン」を縮めたことに由来しています。
当時の黒人音楽はジャズを除けば正当な評価を受けているといえず、日の目を見ることはありませんでした。実際、エルヴィス・プレスリーのロックンロールが黒人音楽によって強く影響を受けていたことは明らかです。それでも黒人が自分の名前で売り出していくことはまだ難しかった時代でした。
そうした状況の中画期的なレーベルとなったモータウン。経営者・従業員・アーティストらはすべて黒人によって担われ、自身のためのプロモーションを堂々としかけ、アメリカの音楽シーンを一躍席巻します。これらはすべてゴーディーJrの情熱によって導かれたものでした。当時のデトロイトには優れた才能を持つアーティストは多くいましたが、集中的にマネージメントをするレーベルは存在せず、そうしたタレントを集約する役割を担ったモータウンはますます成長します。

モータウンは、70年代にロサンゼルスへ移動しますが、とりわけその前のデトロイト時代を全盛期と呼ぶ声は多く、実際多くのスターが登場したのもこの時代です。2009年には50周年を迎え英米では、再評価の熱が高まりました。このように、今もなお愛され敬意を表される伝説的レコード・レーベルであり続けています。

時代を塗り替えるスターが多く登場


スプリームス、ダイアナ・ロス、ジャクソン5、マイケル・ジャクソン、スティービー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ライオネル・リッチー…
ぱっと挙げただけでも本当に才能あふれるシンガーたちがあつまったレーベルであることが分かります。とりわけスプリームスとその中心的歌手であったダイアナ・ロスは黄金期を代表するグループでした。なぜならば、この時代はアイドルソングの時代。そして彼女たちがヒットした音楽的理由とは、様々な音楽ジャンルをクロスオーバーさせ、若者に受け入れられるようなポップソングを与えてもらったことでした。この女性アイドルグループの台頭とポップ音楽の流行といえば、マーヴェレッツの最大のヒット作「Please Mr.Postman」は分かりやすい例と言えるでしょう。
ダイアナ・ロスに話を戻せば、彼女は、当時にしてはまだ珍しかった、モデルのような顔つきとスタイルでした。こうした新しいアイドルのイメージは後のあらゆる女性シンガーに影響を残し絶大なるリスペクトを集めました。そして彼女の功績のひとつと言われているのが、「キング・オブ・ポップ」=マイケル・ジャクソンの発掘です。

「I want you back」や「ABC」で大ヒットを残したグループジャクソン5の一員だったマイケルは、ソロデビュー後ヒット作を残し、音楽のみならずミュージックビデオの制作や優れた舞台パフォーマンスによってアメリカのポップシーンを常に牽引してきました。そんな彼のダンスの振り付けの中で有名なのが「ムーンウォーク」。これを初披露したのは、モータウン25周年の記念パーティーで歌った「ビリー・ジーン」の最中でした。このパフォーマンスよって彼の才能を瞬く間に世界に知らしめることになったのです。

安室奈美恵、エイミー・ワインハウスにもいまだに影響


工場での作業のようにチームワークでの楽曲制作で有名だったモータウン。今となっては当たり前となったこのシステムもモータウンが取り入れ、その成功を後押しました。当時はキャッチーなアイドルポップソングの流行もあり、曲どおしが似た音楽的印象を与えることも。モータウンが得意とした音楽的特徴はスプリームスの「Baby Love」で最も分かりやすく聞くことができます。

このいわゆる「モータウンサウンド」は、幾度も様々なアーティストによって模倣され、オマージュとしてささげられています。その音楽的成果は千差万別ですが、とりわけ成功的な例として2つご紹介。
一つは、エイミー・ワインハウスの「Back to Black」。彼女はイギリスの天才的女性シンガーでしたが、その劇的人生によって27歳という若さでこの世を去りました。もともと彼女はジャズやR&Bを得意としていましたが、この曲はモータウンの音楽的特徴を意図的に分かりやすく取り入れた曲です。

 
もう一つは安室奈美恵の「New Look」。スプリームの「Baby Love」をサンプリングした曲で、大ヒット。PVも当時を思わせるようなファッションイメージをふんだんに用いていてかわいらしい曲になっています。


多くのミュージシャンに影響を与えたのみならず、社会的影響も計り知れないモータウン・ミュージック。その詳細な軌跡をたどることができる決定版の書籍が『コンプリート・モータウン』。数多くの証言やグラフィックによって、60年代の濃厚な雰囲気を味わうことができます。
私たちの音楽的な趣味の中に実は強く刻印されているモータウン。その姿を追ってみれば、自分の音楽的感性もきっと磨かれるはず。

『コンプリート・モータウン』
■著者
アダム・ホワイト/バーニー・エイルズ
(序文: アンドリュー・ルーグ・オールダム)
■価格
9000円(税別)
■発売元
河出書房新社

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