[LIFE名鑑 #movie]歓びのトスカーナ-脱線だらけの二人旅が紡ぐ、ヒーリングのドラマ-

銀座シネスイッチ他で絶賛公開中の『歓びのトスカーナ』。群像劇を得意とした名監督パオロ・ヴィルズィによる作品で、イタリア・アカデミー賞5部門を受賞しました。緑豊かなトスカーナ地方を背景に、精神科グループホームから飛び出した2人が走り抜けます。

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「楽しみましょう」「イカレテる」

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【あらすじ】

イタリア・トスカーナ州の緑豊かな丘の上にあるケアハウス、ヴィラ・ビオンディ。ここでは心にさまざまな問題を抱えた女性たちが、広大な庭でくつろいだり、農作業にいそしんだりしながら、社会に復帰するための治療を受けている。大声を張り上げて意気揚々と闊歩する“自称・伯爵夫人”のベアトリーチェ(バレリア・ブルーニ・テデスキ)は、この施設の女王様のような存在だ。ある日、ベアトリーチェの目に留まったのは、やせ細った体のあちこちにタトゥーが刻まれた若く美しい新参者のドナテッラ(ミカエラ・ラマッツォッティ)。ルームメイトになったふたりは施設をひょっこりと抜け出し、行き当たりばったりの逃避行のさなかに固い絆で結ばれていく。やがて心に傷を負ったドナテッラの脳裏にある痛切な記憶が甦り、ベアトリーチェは病院に引き戻された彼女を救い出そうとするのだが……。

2人が施設を抜け出すきっかけとなったのは、施設外労働中のアクシデントから。彼女たちは行く先々で車を盗み、思うままにトスカーナを走り回ります。2人が施設に入っているのも当然で、ベアトリーチェは躁っぽく虚言癖があり人々を嘘に巻き込んでいきます。一方のドナテッラは鬱っぽく自傷癖も。道中ベアトリーチェは躊躇なくうそをついて無銭飲食やタカりを繰り返し、ドナテッラを振り回します。思いついたように行動をとる彼女は「楽しみましょう」を度々口にし、そんな彼女を見た周囲の人は「イカレテる」と口にして、彼女に舌を巻くかあきれ返るのです。このやり取りは映画の中で繰り返されるのですが、ただの行き当たりばったりを超えた行動は、物語をクライマックスへと近づけていきます。2人の旅は逸脱の繰り返しによって、当人にとってより大事な問題へと近づいていくのです。
この「イカレテる」という言葉は本作では二重の意味合いで響きます。つまり、実際に彼女はそのように診断されていることを指す一方で、そんなことも知らない人たちからすれば常軌を逸した行動に「ぶっ飛んでる」というしかないということです。もちろんベアトリーチェはこのことを知っていて茶化して返答することもしばしば。でもこれは彼女たちのキャラクターを知っている観客の私たちからしても、やっぱり同じです。
私たちは、彼女たちが特殊な人と知ったうえで周囲とのギャップによる滑稽さを楽しもうとするだけでなく、なにか彼女たちに対する近さをまた感じます。それは、置かれた現状をちょっとでもよくするために解決すべき人生の根底へと徐々に向き合っていく過程にあります。これは旅というかたちを通じて徐々にクローズアップされ、ドラマとなっていきます。一方で独特な世界の見方をする彼女たちがやはり病的であることをみて、もう一方では私たちと通じる普遍性を感じながらその行動のパワフルさに「ぶっ飛んでる」と言いたくなるために、「イカレテる」と二重の意味をこめて見ざるを得ないのです。

この映画が、ある種のヒーリング映画としてみられることについて監督はインタビューで以下のように述べます。

具体的に治療してくれるわけではもちろんありませんが、人生について理解する手助けにはなってくれます。日々のドラマや悲劇にユーモアを見出してくれる映画はことさらです。

「言葉は見当違いで滑稽」

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ドナテッラは自分の記憶へと対峙するためにベアトリーチェの力を借ります。2人の友情が固く結ばれたと見えるシーンでドナテッラは身の上話を打ち明けます。こんな境遇、人間だからこそ受けた苦痛についてです。その苦痛の根底にあるのは、他人が自分を理解するために張り付けるレッテルでした。これについて、ドナテッラは「言葉は見当違いで滑稽」と言います。もちろんこれは私たちへも向けられた言葉。彼女たちの生き方を、簡単にカテゴライズしない、ベアトリーチェやドナテッラ本人の生き方として見なければならないことに気づきます。
しかしながら、他人事としてしか接してくれない世界が今のドナテッラを繰り返し苦痛へととどめるのです。何かにとらわれたようなドナテッラについて、彼女を演じたミカエラ・ラマッツォッティは以下のように述べます。

〔彼女は〕…強い切望にとらわれています。自分をこの状況に追い込んだ、過去の苦しみからも逃れられないでいます。これらすべてがドナテッラの沈黙の根源なのです。これ以外のことを考えられないのです。

彼女たち、少なくともドナテッラにとってより大事な問題とは、道中劇的に明らかになる何かではありません。むしろ、今なぜ同じような苦しみを繰り返さなければいけないかという、常にそこにあるけど抜け出せない問題のことです。だからこそ、ベアトリーチェによって常に逸脱を繰り返していくことによっていつもは見えなかった自分が徐々に見えてくるのです。現状からの解放へと向かっていく過程は、病的な現状からのヒーリングの過程としても見て取れます。そして、ヒーリングとしての旅は穏やかに進んでいくのです。

友情。また遅咲きの人生を手に入れる

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重い話が続きましたが、この映画は監督が意図したように、コメディです。まるで正反対の2人が予測もつかないような事態に投げ込まれ、それを乗り越えていく中でクスッと笑えるシーンが続きます。なによりも主演2人のキャラクターが際立ち、つかず離れずの独特の距離感で演じてくれます。
ベアトリーチェは、常に大仰で見ているだけでハラハラするのですが、徐々に頼もしく見えてくるなんてことも。一方で子猫のようにベアトリーチェの後をついてくるドナテッラも可愛らしく見え、ついつい気持ちを寄せてしまいます。2人とも、ちょっと変わった真っすぐさがありそれに徐々に私たちも心ほだされていくのです。

複雑な問題を確かに扱っていますが、そこに常にあるのはイタリア的な温かさ。家族や愛といったモチーフが、緑豊かなトスカーナ地方を舞台に繰り返し現れます。こうした人間味あふれる作風はまさに土地柄でしょう。2人の友情が育まれる過程をこうした穏やかさの中で眺めることができるのがこの映画の魅力の一つです。

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人間ドラマであり爽やかなロードムービーである本作、映画館でこそじっくり愉しみたいです。

歓びのトスカーナ
■監督
パオロ・ヴィルズィ
■キャスト
バレリア・ブルーニ・テデスキ/ミカエラ・ラマッツォッティ
■上映時間
116分
■配給
ミッドシップ
■劇場公開情報
2017年7月8日(土)より、シネスイッチ銀座ほか、全国ロードショー

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