LiBzLIFE的読書 09:00 『ニューヨークで考え中』

LIFE読者に読んでほしい漫画・エッセイ・小説etc...を、読後の連想で紹介していく緩いコーナー。一日のうちでおススメな時間帯とともに一冊を紹介。

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ヨーロッパの朝


近藤聡乃さんの『ニューヨークで考え中』を読んだ。ヒット作『A子さんの恋人』のニューヨーク滞在中のエッセイコミックだけど、ニューヨークの生活を独自の距離感と実感で綴っている。ニューヨークに入り込むでもなく冷たいわけでもなく、日本との切っても切れない関係も意識したその距離感は海外で滞在したことのある人なら感じる自分と海外生活というテーマを絶妙に切り出しているように思う。

読み終わって、思い出すのは同じようなヨーロッパにいた頃の過ごし方だった。澄んだ空気や綺麗な街並みに覚えた新鮮な感動ということではない。じゃあ、何を思い出すかというと日ごろの朝。滞在していたのは中心部が少し栄えた小さな都市。観光ではなく留学で長いこといたので、すっかり向こうの住人と思い込んでいた。朝は8時くらいに起きてパン屋に行って、コーヒーとパンを合わせて3ユーロくらいで買って併設したカフェに居座っていた。コーヒーとパンは本当に安いから色んな人と会う用事も、気分を変えたいときも全部パン屋。お気に入りを見つけてしまえば、あとはそこに足を運び続けるだけなのだ。だから、まず思い出すことといえば、パン屋までの道のりとパン屋の光景である。

ふと思い出したことによって、さらにその時身に着けた所作が懐かしくなる。トングでパンをとって、カウンターでコーヒーを注文する。はじめのころは簡単語学教室みたいなたどたどしさだったのに、慣れてくれば友達と会話しながら流れるように注文することもできるようになった。しょうもないけど大事な進歩だったと思ってる。カップになみなみと入れてもらったら、砂糖とミルクを加えてこぼさないように席までもっていくし(ソーサーにはすごい零れる)、紙カップでもらったら飲みながら教室までの街中をずんずん歩く。こういう習慣を思い出す。

東京のカフェ


東京に比べれば街の中でなんでも完結してしまうので生活が手に収まってしまう感覚があった。だからそういうところで身に着けた習慣と意識を東京でも忘れずにストレスなくミニマルに生きたいと思ったけど、帰ってくればすっかりいつもの調子に戻ってしまった。友人とカフェで久しぶりに話せば、ヨーロッパに比べればとても素晴らしい店員のホスピタリティに一瞬すごい感謝するのだけど、すっかり我が物顔でかつてのように世間話をし続けてしまうのだ。もうすっかり遠い記憶になってしまったヨーロッパのカフェの記憶も、たまには思い出して再現できないかと考えるけどしっくりこないのであきらめている。
東京にいるときは、わざわざ、友人と会ってふんぞり返って世間話をするためにカフェに行くのはやめられないだろう。それはもう毎朝のルーティーンでもなんでもないけど必要な習慣である。

ちなみに東京でのカフェのこだわりは、特にない。大学時代から仲のいい友人の職場とこっちの最寄りが近いからというわがままな理由で一番よさそうなところを決めただけである。でもなんだか喫茶店の雰囲気としては素晴らしいので結果としてよかったと思っている。

ニューヨークで考え中
■作者
近藤聡乃
■出版
亜紀書房

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