LiBzLIFE的読書 12:00 『淡島百景』

life読者に読んでほしい漫画・エッセイ・小説etc...を、読後の連想で紹介していく緩いコーナー。一日のうちでおススメな時間帯とともに一冊を紹介。

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ドキドキする経験


今を代表する漫画家の一人である志村貴子さんの新刊『淡島百景』。瀬戸内を思わせるロケーションで、歌劇学校に通う女の子たちの群像劇。群像劇を通じて少年少女から若者までの繊細な交流を描き、そこで生まれる淡い感情を繊細なタッチで表現する志村さんの漫画は読んでいつも多幸感につつまれる。今回は女の子だけの寄宿舎が舞台なので、なおのこと読んでるこっちはついついキャッキャしてしまう!

志村貴子さんの作品を読んだときに襲われるこの幸せな気持ちはもちろん作品の完成度の高さゆえだろう。画力やストーリーなど漫画としての要素はどれをとっても申し分なくて、だからこそ感動をとらえる経験が自分を超えてしまって麻痺してしまう。夏になると多感だった頃を思い出してしまうことが多くて、そういう気分に浸れる作品を読もうと思うと志村貴子さんはまさにうってつけである。(知人の男性Aは、あだち充の『H2』を夏に読みたくなるらしい)

感動は孤独な経験だと思う。あんまり感動しているとまず他人と分かち合うための的確な言葉が出ない。何か話しても「それは違うわ」とすぐにひっこめる。もちろん、分析眼が優れていて感動を解体してくれる人もいるけどその言葉にだけ委ねるわけにはいかないのだ。
感動の孤独さは、実は、言葉で他人に伝えられないから起こるのではなくて(だからほかの人に通じなくても別にいい)、作品の世界に心が持っていかれて帰ってこられないから起こっているんだと思っている。「作品の世界に飛び込む」という比喩ほど作品に身を落とすことは難しい。コマ越しに向こうの世界を見ているだけだけなのに、心が持っていかれるこの感動は何なのか!こうしたある種のもどかしさが孤独さにつながっている。

あの子の気持ち


そうはいっても、「これはすごい漫画だ!」とばかり言っていられない。
印象的なのが、モノローグ。もやっとした自分の気持ちに向き合うシーンが好きで、だからか黒いシーンを「志村さんといえば…」でしばしば思い出す。放たれる言葉が余韻として残るのはこうしたモノローグが鋭く言葉として出てくるからだろう。きわめて繊細な内面がスッと言動として出てくることで、内面へ至ることができないことを感じて、感動の孤独さが生じる。なんだか愛でていたくなるのは単に穏やかな作品の雰囲気だけではないだろう。感動の孤独さによって、最も個人的で適切な距離感を作品に対して持てるようになる。

作品へのこうした向き合い方は結局「そうだよな…」で落ち着いてしまうけれども。

淡島百景
■作者
志村貴子
■出版社
太田出版
■巻数
2巻まで。以降続刊。

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