「これってモラハラ…?」迷ったらまずは知ってほしいポイント

職場における問題として指摘されているモラル・ハラスメント。他のハラスメントに比べて把握が難しく、かつ被害者へ与える影響は甚大です。また、モラル・ハラスメントを許してしまう職場も、働くためには適切な環境とは言えません。事前の予防と、解決策の理解が求められます。

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複雑ながらも重要な概念


ここ数年注目されているハラスメントのひとつである「モラル・ハラスメント」。聞いたことはあるかもしれないですが、具体的にどのような行為をモラル・ハラスメントととらえるかは難しいかもしれません。これまでは、職場内で起るパワハラやセクハラ行為は、主に大まかに「職場のいじめ、精神的虐待・暴力」のような分類をされて、具体的なハラスメントとして把握されていませんでした。しかしながら、今世紀に入る直前から欧米を中心に、身体的暴力以外にも精神的暴力もまた等しく解決されなければならないという意識が高まります。
こうした社会的状況の中で、フランスの精神科医であるマリー=フランス・イルゴイエンヌ博士によってモラル・ハラスメントが提唱されました。はじめは主として家庭内のモラル・ハラスメントを取り上げていましたが、続く著作『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』では会社内のモラル・ハラスメントについて詳細に分析します。その分析のはじめは「何がモラル・ハラスメントでないか」を明確に取り上げます。それは以下の通りです。

・仕事上のストレス・仕事上の対立・職権の濫用・一時的な攻撃・はっきりした暴力・厳しい労働条件・職務による正当な要求

これらを初めに取り上げたのには理由があります。ひとつには、モラル・ハラスメントでないハラスメントはすでにある法や労働体系の中で解決できる問題であること。もう一つは、不当にもモラル・ハラスメントを訴え言葉の拡大解釈を防ぐためです。欧州ではモラル・ハラスメントを法制化する過程で、なるべく客観的な状況としてモラル・ハラスメントを捉えようとしましたが、博士はそれに鑑みつつ以下のようにモラル・ハラスメントを定義します。

職場におけるモラル・ハラスメントとは、不当な行為(身振り、言葉、態度、行動)を繰り返し、あるいは計画的に行うことによって、ある人の尊厳を傷つけ、心身に損傷を与え、その人の雇用を危険にさらすことである。またそういったことを通じて職場全体の雰囲気を悪化させることである。

マリー=フランス・イルゴイエンヌ『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』(強調: 編集)

簡潔に言えば、職場内で生じるコミュニケーションの中で巧妙に人の心を傷つける精神的な暴力の事を言います。重要なのは、それが継続して行われているということです。例えば殴打といった暴力は明確に刑事罰を受けるような行為です。法的・社会的視点に応じて各人が提唱する定義は多少異なりますが、以下がモラル・ハラスメントの核心だと述べています。

モラル・ハラスメントが一見したところでは気が付かないほど小さな攻撃でありながら、被害者の心身に破壊的な力を持っているものであるという点に変わりはない。相手に対する嫌がらせの行為は、そのひとつひとつをとってみれば、それほど深刻なものだとは思われない。

マリー=フランス・イルゴイエンヌ『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』(強調: 編集)

モラル・ハラスメントは一方で、加害者側に悪意があることを突き詰めることは困難です。また、労働環境がモラル・ハラスメントを生みやすいがゆえに「会社のためだ」という大義名分を掲げ悪意を抱いていないと誤解することすらあります。被害者に比べ加害者に認識させづらい非対称な関係について、以下のように博士は考えています。

モラルハラスメントが行われるとき、その裏に「この出来事が原因だ」と断定できるようなことはほとんどない。それよりも、堂々と口にすることができない感情的なものが重なって、モラル・ハラスメントの原因になっている場合が多い。

マリー=フランス・イルゴイエンヌ『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』

従って、モラル・ハラスメントには客観的に適用できる基準はなく、個々の職場・労働者によって判断しなければならないといえます。

コミュニケーション不全から起こる


では、実際にモラル・ハラスメントはどのような形をとって現れるのでしょうか。悪意をもった言動を、博士は以下の4つに分類しました。徐々に他人からでもはっきりと暴力としてわかるような言動になるため、段階的な分類であるのが特徴です。

モラル・ハラスメントとして捉えられる4つの悪意ある言動
1.仕事に関して相手を傷つける言動
2. コミュニケーションを拒否して相手を孤立させる言動
3. 相手の尊厳を傷つける言動
4. 言葉による暴力、肉体的暴力、性的な暴力

マリー=フランス・イルゴイエンヌ『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』

こうした行為にさらされてなお、モラハラだと認識されづらいこともあります。その場合以下の二通りの判断基準によってモラル・ハラスメントを疑ってみることを勧めます。

1. 自身の体調の変化
例えば以下のようなことが思い当たる場合、モラル・ハラスメントによるストレスで今後大きな心身への障害が生じる可能能性が大きいです。
●職場での出来事を思い出し、夜寝付けない。
●職場のある人物と話す事がとても嫌になる。
●出社当日に突然の腹痛に襲われる。

以上の異変を放置した結果、最悪の場合、
●不眠症・胃痛・生理不順・円形脱毛症・過食
●うつ病・神経病
が症状として現れ、重篤な場合はうつ病やPTSDのような深刻な精神病へとつながります。

2. 職場の情報
職場の環境がモラル・ハラスメントを許してしまったり、特定の加害者が度重なって複数人に被害を与えていることあります。そのため、ひとりで抱え込まず、信頼出来る職場仲間に相談してみてこれが正常か確認してみることを勧めます。もしかすると、以前も同じような事があって、常態化している可能性もあります。もしそうであれば、構造的な問題として取り上げそこから対策をとることができます。

モラル・ハラスメントはコミュニケーションの中で主観的に生じるハラスメントのため、体調という「内的情報」と、職場の環境という「外的情報」内外両面から検証する事がもっとも重要です。

上司や専門家と連携して解決へ


モラル・ハラスメントについては諸外国同様法制化を進め、企業の経営者層が理解を深めることで予防策をとることが求められます。
ただし、実際に起きてしまった場合には職場で連携して被害を抑え解決を目指さなければなりません。
些細な行為の繰り返しであるモラル・ハラスメントは、本人にとっての重大さにひきかえ相談を受けた場合は軽く受け止めてしまいがちです。モラル・ハラスメントの相談をされた場合は親身にかつ慎重に話を聞いてください。また被害者の訴えは、一人で上司に申告しても聞き流されてしまう事がほとんどです。複数人で職場の問題として上司へ訴えましょう。
法制化されていないモラル・ハラスメントを訴えただけでは就業規則などの違反とはなりにくいため、それのみをもって処分する事は難しいのが現状です。そのため、処分するための明確な根拠が必要となります。
解決には職場の上司が主導する必要があり、

軽い忠告→経過観察・記録→処分

と段階的に対処していくことが望ましいです。忠告で改善しない加害者に対して最終的にはけん責処分や賞与査定などにおいて、社内的に制裁を加えることを伝えましょう。
また、忠告を無視する場合「業務専念義務違反」や「業務命令違反」などで正式に処分を与える事も可能になってきます。そのため、忠告をした履歴や、その後の本人の状況などを細かく業務報告書などに記録して残しておく事が重要です。
また、職場での解決が難しいことも多く、その場合は法律や労務問題に詳しい専門家に相談することを勧めます。モラル・ハラスメントを含めたハラスメントへの対処を熟知し悩みに応えてくれるためです。

誰もが働きやすい職場のために、自分が被害者であっても、同僚が被害者であっても対応できるように、対処方法を理解しておくことが重要です。

モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする
■著者/翻訳
マリー=フランス・イルゴイエンヌ/高野優
■出版社
紀伊國屋書店
■出版年
2003